寒い空を眺める。
嗚呼。こんなに時は流れたのか、と思う。
「・・・・・・・」
寒空の下。笑顔で彼女は立っていた。
特に何をするでもなく、スズカ・クラハシはそうやって、もう十分程経っていた。
寒い、という感覚も慣れれば最初に感じる程でもなく。ただ、その空と風の下、微笑を湛えていた。
ふっ、と息を吐いたらそれは白くなり、そしてほかの空気へと溶けてゆく。
嗚呼。何時の間にか、こんなに寒く、なっていたんだね。
それを見て、ふいに思った。
もう、一年が終わる季節になった。
たった、一ヵ月ほどしか経っていない気分でいた。だけど、違った。
いつの間にか、季節は巡る。
それを望まなくても、巡っていく。
雪が溶け、花が咲き、そして散り、日差しが照り、葉が染まり。そして、雪が降る。
その繰り返しの中、きっと。――忘れたくない記憶も、色褪せてしまうのだろう。
考えないように。していたのだけれど。
ずっと、憶えているのは、不可能。
だけど。・・・色褪せさせたく、ない。それが我儘だとしても。
「雪と、桜は・・・・似てるようで違うよね」
自分にしか聞き取れない声で言う。元々人気のない所だから、普通の話声でも誰にも聞かれなかったのだけれど。自分の本音を写すその言葉は、自分の耳にのみ入れたい。そう、思っていた。
空を、見上げる。
灰色に曇るその空は、冷たいが雪を降らす気配はない。
雪が降れば交通に不便だが、目に見る分にはとても美しい。
そう思い、口の中で「雪、降ればなぁ」と幾度も呟いた。
雪と桜は似ている。
こう思えるのは、きっと。どちらも儚さを感じさせるからだろう。
桜も。雪も。
一瞬で散る。
一瞬で溶ける。
それに、美しさを感じるのだけれど。
たくさん想いをはせて、結局雪は降りそうになかった。少し笑って、踵を返す。
「・・・また・・・今年も、雪がつもるといいね。去年のように・・・」
過去に固執する自分に苦笑した。
それでも、口に出した願いを抱きしめたい。
けれど。口に出した、その願いは。
あっという間に冷たい空気に溶けて、消えてしまった。
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