暖かい春の日が来て、直ぐに寒い冬の日に戻る。
体調を崩しやすい季節だ。
――そんなワケ、で。
彼女・・・・スズカ・クラハシは、案の定、風を引いてしまった。
「・・・・喉が痛い・・・・」
「もう・・・大丈夫?」
妹が風邪を引いた、と聞きつけてワカバはすぐさま看病に駆けつけてくれていた。
「夜更かしでもしたの?駄目でしょう」
もう、と再度呟きながら、熱はない?、と妹の額と自分の額に手を当てる。
「熱は、ないみたいね」
「ふみゅ~・・・・」
「駄目でしょう、冒険者がこんな大事な時期に風邪を引いたら」
幼子を叱り付けるように、ワカバは言うと、妹の額と自分の額を合わせる。
「自分の体を大事になさい。いいわね?」
「は~い・・・・・」
スズカも、そんなワカバを嫌がるわけでもなく、母親に叱られた子どものようにうなだれる。そんなスズカを見て、ワカバはくすっ、と笑った。
額を離すと、スズカの琥珀色の髪を、ゆっくり撫でてやる。
「反省してるなら、良しよ。ちょっと待っててね。お粥作ってあげますから」
そう言って、ワカバはスズカと一緒に座っていたベッドから立ち上がると、台所へ向かった。
足音がやがて、遠のくまで、スズカは其の後姿を追った。
「ごめんね、お姉ちゃん・・・・」
そっ、と呟く声は、自分の耳にのみ入ってくる。
ふぅ、とスズカは息を吐くと目を閉じた。
「駄目だなぁ・・・私はいつも人に甘えて」
心の中では駄目だ、と思っていても、ついつい甘えてしまう。
駄目だなぁ、ともう一度呟いた。
そうこうしてる内に、ワカバが粥の入った鍋を持ってきて、笑った。
「いっぱい食べてね」
「あ、うん。ありがと、お姉ちゃん」
「どう致しまして。・・・ねぇ、スズ」
「ん?」
ワカバは、ゆっくりと、優しい微笑みを作った。
「遠慮しないのよ」
悟られぬよう、驚きでぴくり、と体を微かに動かす。
心を、読み取られたように言う姉に、スズカは微かに笑った。
「遠慮なんかしてないよ?お姉ちゃん」
そう。
遠慮何か、してないから。
私はいつも、大好きな人達に甘えている。
甘えられる事の幸せを、知りながら。
湯気の立つ粥を口に運ぶ。
美味しいよ、と笑った。
私は、こんなにも弱いから。
何時でも皆に頼ってる。
其れがどんなに恵まれているか、知っている筈だけれども。
有難う、と小さく呟いた。
喉の痛みは、大分引いていた。
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