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――音色が聞こえる。
ゆっくりとした、柔らかい音色。
合わせて聞こえる、優しい声。
――高く、響いて……。
「……どうしたの?」
ふと、唄と音楽がやんだ。姉が、私に背を向けたまま、訊ねる。
「……ううん。演奏が聞こえてきたから」
「そう」
姉はくすり、と笑うと私の方を振り向いた。深い藍色が、私を見て、優しく微笑む。
「こっちへおいでなさいな」
「…ん」
一歩ずつ、ゆっくりと歩みながら、姉の部屋へと入る。
箪笥や鏡台など、最低限の物しか無い。姉は職業上か、服飾などは煌びやかな物が好きだけれど、部屋などは小ざっぱりしてる方が良い、と昔言っていた。楽器などは、違う部屋に大事に保管している。
そんな姉の部屋を横切り、お姉ちゃんの横で正座をする。其れを見ると、姉は柔らかく微笑み、私の髪を優しく撫でてくれた。
ずっと好きだった手。優しい手。
今は…一番では無いけれど。それでも、長い間、私の唯一の家族だった人。
じっと見上げていると、可笑しそうに笑った。
「本当に、どうしたの?そんな真剣な顔をして」
「…そんなわけでは無いのだけれど」
「そう?」
くすくす、と楽しげに笑う姉に、思わず、むぅ、と拗ねて視線をそらす。
其れを見て、更に楽しげに姉が笑うから、頬を膨らませた。
「ふふ。御免なさい」
「むー」
「ふふ、良い子ね」
「…うー」
撫で撫で、と優しく頭を撫でられて、まだ少し不機嫌ながら、姉に目を向ける。姉はちっとも悪びれない顔をして、にこにこと笑っていた。
「……」
そんな姉を見て。口を開く。
「…最近、よく楽器を弾いているね」
「好きだから。仕事が休みの日くらい、良いでしょう?」
「…そう?」
「そうよ」
笑顔のままで姉が頷くから、そう、としか返せない。
沈黙の後、姉がまた、ソードハープをゆっくり演奏し始めた。
白い指で弾く度に、音が響く。
両膝を抱えて、其れを聞く。
聞きなれた旋律が、流れる。
謳う。
…何故だか、とても寂しかった。