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「お姉ちゃん?」
思わず、驚いて声をかける。
お姉ちゃんは、最近よくお酒を飲むし・・・其れに、強いけれど元々此の人は加減を知らない人だ。時々飲まれる。
其れでも、頼りになるお姉ちゃんだってことは、私にとってはかわらないんだけど。
「あら、おはよう。スズ」
お姉ちゃんは、一旦朝食の準備をやめて、私を見た。
「ん、おはよう。・・・珍しいね」
朝食の支度は、ほとんど私がする。
というか。
お姉ちゃんが出稼ぎて、私が家事・・・という習慣は、昔。其れこそ、二人になった時からついていた習慣だった。まぁ、二人になった頃はほんとにお姉ちゃんに任せきりだったんだけど・・・。
其れが今でも情けなくて、今は出来るだけ、積極的に家事をしようとしているんだけれど。
・・・何となく、役をとられた気分。
「たまにはね」
くす、とお姉ちゃんは笑う。
「昨日もお酒飲んでたのに」
「飲んだ方が声の調子がいいのよね」
「・・・そう?」
「そうよ」
其れから。
結局、二人で朝食を作り、食べた。
後片付けが終わった後、お姉ちゃんは不意に笑った。
「髪。寝癖、酷いわよ?」
「え・・・・・」
元々、お姉ちゃんの真っ黒でまっすぐな髪とは違い、私はくせっけだ。毎朝、格闘はしているし、勿論今日もそうなのだが・・・・。髪質というものか。
姉妹なのに、と思うと余計に落ち込む。
「おいで」
お姉ちゃんはそういうと、鏡の前に私を連れて行く。
私を座らせると、ブラシをもって、私を髪を丁寧に丁寧に梳かしていく。
鏡越しに見ると、朝の格闘もあってか、何時もと変わらないように見えたのだが、お姉ちゃんの判断に任せた。
お姉ちゃんは、丁寧に私の髪を梳かしていく。
何も言わずに、ぼんやりと私は其れを鏡越しに見ていた。
・・・見ている内に、気分が悪くなる。
身体が強張るのを感じた。
今・・・鏡で自分の姿を見るのは、
・・・もしかしたら、苦痛なのかもしれない。
眼を伏せた。
どんな色が宿っているのか見たくもなかった。
一生懸命、着物の裾で手を隠した。
知っていたし、分かっていた。
全部。
私の自己満足以下――
「何しているの?」
ふと、お姉ちゃんが優しく声をかけてきた。
はっとして、慌てて鏡を見る。鏡越しに、眼があった。
何時も変わらない、優しい眼。
「別に・・・」
短く答える。
似ていない姉妹だけれど、眼の色だけは同じだ。誰が此の眼をしていたのか、私はもう覚えてもいない。
「・・・・駄目よ、そんな暗い顔をしたら」
お姉ちゃんは寂しげに微笑みながら、そうしてレースのリボンを手にとる。
此れは元々、お姉ちゃんが私にくれたものだった。
ほら、可愛いでしょ。
そんな風に笑いながら。
「そんな顔をしていると、笑い方を忘れてしまうわ」
「そんな事、ないと思うけど・・・」
「あら、そんな事無いわよ。絶対」
真顔でいいながら、私の髪にリボンを結んでいく。
布の擦れる音。
其れをぼんやり聞いていた。
「・・・・笑っていなさい」
ふと、お姉ちゃんが呟いた。
「・・・・・・」
答えなかった。まるで、時間が巻き戻ったような感覚を憶えたが、何も言わない。
「笑うかどには福きたる、っていうでしょ?・・・・というより、貴女がそんな顔していたら、かけなくて良い心配までかけてしまうわよ?」
「・・・・・う」
「・・・独りではないでしょう?」
リボンが、綺麗な蝶々結びになったところ、お姉ちゃんは私の肩に手を置いた。
「ほぅら。出来た――」
可愛いわ、と微笑む。
つられて、笑ってしまった。
「貴女は、貴女なりに頑張りなさい。・・・・でも、笑うのは忘れないで。幸せまで逃げてしまうわ」
答えないかわりに、微笑んだ。
肩に置かれたお姉ちゃんの手に、自分の手を重ねてみる。
大丈夫。
知っているし、分かっている。
私は、独りだった時なんて、無かったし、ないって。
だからこそ、
「・・・私なりに納得いくまで、頑張ってみるね」
「・・・・・そうなさい」
そういえば、此の道を決めたのは私なのだから。
傷を、抉る事になろうとも。
「・・・ごめんね。ありがと」
「・・・・・・・」
お姉ちゃんは答えなかった。
でも、重ねた手のぬくもりが私にはあって。
――今はもう、二人きりじゃない。
仲間がいるのを、大切な人がいるのを、思い出されて。
――鏡越しの私を見ることが出来た。