段々と寒さは増して行き、空にも風にもその寒さが滲み出る。
「寒い日の買い物は憂鬱ですわね」
ワカバは苦笑しながら、市場をうろついていた。
『お姉ちゃん、ドラゴンゲードにいってきます★』
元気よく笑いながら出掛けた妹を想い、更に苦笑する。
一緒に連れて行かれたエルフの彼女は、大丈夫だろうか。
あの子より随分しっかりしてるから大丈夫だと思うけれど――そう思い、笑った時だった。銀の髪が見えた。
「・・・あら」
丁度、エルフの彼女の事を考えていただろうか。彼女の姉の姿を見た。
「リリアさん。御久しぶり」
「・・・・こんにちは・・・・」
表情に変化を見せずにリリアは振り返る。
「お買い物ですか?」
「・・・ええ・・・普段は・・・妹がするのだけど・・・今日は出掛けてて・・・・」
そうですの、と答えながらワカバは少しだけ申し訳ないような気がした。彼女の妹を連れまわしているのは他でもない、自分の妹なのだ。
「・・・本当は・・妹に・・・姉様は家で留守番しててください・・って・・・言われてるんだけど・・・たまには・・・私も買い物をしなくちゃ・・・って思って・・・」
そういい、持っていた買い物袋を見せる。中身は、まだ空っぽだ。
「そうでしたの。私も買い物何ですのよ。宜しかったらご一緒しませんか?」
やんわりと尋ねると、リリアはええ、と返事をする。
「リリアさんは何を買うおつもりで?」
一緒に歩みを進めながらワカバは尋ねた。
リリアの返事は、
「・・・・さぁ」
「・・・はい?」
あまりにアバウト過ぎる返事に思わずワカバは唖然とした。
「決めてないの・・・・適当に・・・出てきただけで・・・・」
「・・・・・・」
本当に、彼女とこの人は姉妹なのだろうか。
一瞬、そう考えた。しかし、「本当に姉妹なのか?」という言葉は自分と妹にも当てられる質問なので、それは置いて置く事にして、ワカバはほとんど無理に笑顔を作った。
「そうなのですの?」
「・・・ええ」
表情一つ変えないけれど、この人は嘘をつける人物ではない、というのはよく知っている。そして、冗談を言えるタイプでもない。全ての事に大真面目なのだ。
「・・あの、それでは・・・私、ロールキャベツを作るつもり何ですの。リリアさんもそれにしませんか?」
「・・・・その格好で作るのがロールキャベツなのね・・・・」
「放っておいて下さいませ」
そのワカバの言葉を聞いてリリアは言う。
「・・・ごめんなさいね・・お願いできるかしら?」
本当に自分より年上なのか、と苦笑してそしてその無邪気さに微笑んで頷いた。
「ええ、勿論」
「・・・これ・・安いのかしら」
「高いですわよ!?」
何度か、リリアの天然さに振り回されつつ、ワカバは楽しさを感じていた。
冒険者になる前に、は、妹とよくこうやって過ごしたものだ。
そう思い、微笑んだ。
冒険者となって、そしてあの子が結婚してからはそれもなくなったけど。
それを知ってか知らずが、リリアはぽつりと言った。
「ワカバ・・・買い物に付き合って・・くれてありがとうね」
「いえいえ、こちらこそたの・・・」
楽しかった。
そういおうと思っていたのに途中でそれは驚きで喉を押し込まれた。
――リリアが、笑っていた。
それは本当に微かな微笑だけれど。確かに笑っていた。
「・・・・・楽しいですわ」
ワカバはやがて、そういい微笑んだ。
「でもまだ買う物はありますわよ?付いてきてくださいませね」
「ええ・・・・・」
笑顔を消して、リリアは頷いた。それを見て、ワカバは目を閉じて、そして開けた。
市場を、リリアと共に歩く。
――そんな、休日のひと時。
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