03 | 2025/04 | 05 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
27 | 28 | 29 | 30 |
2ピンが出来たので、いそいそと前々から書いてたSSを乗せます。
アトリエ報告は、今度纏めて。土日にでもっ。
見る前の注意点
・此れはほぼ、ルーさんへの愛で書き上げました
・娘夫婦への愛もたくさんありまs←
・文章力が残念です。
・でも愛はあります。
其れで宜しければいいよ、という方のみどうぞっ
――春の日差しが、暖かい。
緑の葉が、青々しく茂る道を、スズカ――鈴花は、恋人のルーファスと一緒に歩いていた。
付き合い始めて一年。
彼が鈴花に「何か欲しいものはあるか?」と訊ねてきた。其の言葉だけで、鈴花は本当に十分だった。だから、逆に「ルーファスこそ、何かありませんか?」と、そう訊ねた。
すると彼は少し考えて、よし、と笑ってくれた。
「デートに付き合って貰おうかな」
――そして、今。
二人で木々の間の道を、並んで歩いていた。
鈴花はそっと顔を伏せる。其の顔が、わずかに朱に染まっている。ルーファスに気づかれなければ
いいのだけれど、と思いながら歩みを進める。
一年たっても、こうして肩が触れ合う程に近い距離に居るのは、とても恥ずかしくて――幸せだった。ただ、こうして恥ずかしがっている姿を見られるのは、やっぱり恥ずかしくて。
だから、長い髪で顔を隠すように、うつむいた。
「鈴、」
「え、あ、は――はぅっ!?」
名前を呼ばれ、あわててルーファスの方を見ようとばっと顔を上げる。其の瞬間、足元が縺れてし
まい、そのまま前倒しに転んでしまう。
ずさーっと派手な音をたてて転んだ鈴花を見て、ルーファスはあー、と苦笑した。
「大丈夫か?」
「うう、なれてます……は、はぅっ」
転んだ羞恥心で少し落ち込みながらも、鈴花が答え、顔を上げると同時に、ふわ、と彼女の身体が宙に浮いた。
基、ルーファスに抱き上げられたのだ。所謂、お姫様抱っこ。
鈴花は自分の其の状況を理解すると、益々赤くなり、おろおろとルーファスの顔を見た。
「あ、あのっ…あのっ」
「こっちの方が良いだろう?転ばないし」
「で、でもっ……重い、でしょう?」
「ん?そんな事ないぞー。ほら」
ルーファスは鈴花を抱き上げたまま、くるっとその場を回ってみせる。鈴花はあわあわと驚き、思わずルーファスにしがみ付いて――
「…みっ。あぅっ」
良くわからない声を発して、直ぐに離れた。ルーファスは其れを見て、くすくすと笑う。そんな彼
の態度を見て、うう、と鈴花はうつむいた。
ルーファスは、そんな鈴花を見つめ、微笑み、そして歩みを進めた。
柔らかく、抱き上げて貰って、そして彼の一番近くで、春の暖かい日差しを浴びる。
幸せ。
とても、幸せな事。
だけれど……
(……ルーファスは、どう思っているのかな)
一年。
一年間。
ずっと一緒に居てくれた。
其れは、鈴花にとって、今まで生きていた中で、一番幸せな事で、喪いたくない事で。
けれど。
(貴方も…同じように思ってくれている…?)
故郷では、忌み子と疎まれていた彼女は、とにかく自分に自信がなかった。故郷を出るまでは、姉以外の人とは話さなかった程に臆病でもあった。
だからこそ。
楽しい事の方が。
幸せだった事の方が。
多い筈なのに。
なのに、辛かった事、悲しかった事、寂しかった事、其ればかりを思い返しては、いつまでも心に
其のどろどろとした感情を留めておく自分が嫌で、そしてこんな自分だから嫌われていないか、心配
だった。
色んな事を訊ねようとして、そして止めた。
どんな返事が返ってくるか分からなかったから、だから怖かった。
こんなに、どろどろとした感情をいつまでも持っていたら、嫌われてしまう。そう思って、そっと目を伏せる。
自分がどんな表情をしているか、十分に理解していたから、だから、見て欲しくなかった。
着物越しに伝わる体温が暖かで。其れに少しだけ、安心して目を閉じた。
と、
「――あの樹の下で、休まないか?」
「はぅ」
あわてて、顔を上げると、ルーファスが自分の顔を覗き込んでいた。其れにかぁ、と赤くなり、慌てて目をそらし、目の前にある、樹を見る。
其れは周りの樹より、一回り大きな樹で。新緑の葉が、青々と茂っていて、気持ちよさそうな木陰を作っていた。
「あ、えと…はい」
こくり、と頷くとルーファスは木陰の下まで鈴花を運び、其処に腰を下ろす。そして、当然のように鈴花を自分の膝の上に座らせると、そっと彼女を抱き寄せた。
「あ……」
「柔らかいなー。鈴は」
「な、何をいってっ…もぅっ」
恥ずかしくなり、慌てて目線を下に向ける。顔が自分でも分かるくらい、熱かった。
ルーファスが自分の頭を優しく撫でてくれているのが分かった。うー、と呻きながらも、其の手が暖かで、嬉しかった。
先程までのもやもやとしたものは消えたわけではないが、大分心の隅へと追いやれた。自分は単純だな、と苦笑した。
ちら、と見上げると、ルーファスは相変わらず笑顔のまま、自分を見ていた。ん?、と小首を傾げる彼に、何でもないです、と小さく返した。
日差しが暖かだからか、ルーファスは何時もの僧服を肩に引っ掛けるように羽織っていた。其の下のワイシャツ越しの彼の胸に、鈴花は軽く額を当てる。
格好良いな、と思いながら、何か話そうと思い、其のまま、彼の胸に額を当てて、鈴花は小さい声で、言葉を紡ぐ。
「…此れからも、一緒にいましょうね」
何時も通りの声、だった筈だ。
けれど、心は震えていた。
やっぱり、不安で。
不安で。
…仕方がなかったから。
――ふと、自分の背中に回る腕に、力が入ったのを感じた。
「勿論」
聞きなれた声。
もしかしたら、言葉自体も何度も確認している、聞きなれた言葉なのかもしれない。
けれど、鈴花は一言一句、聞き漏らすまいと目を瞑る。
「此れからも、君の傍に居るよ」
「――…」
やっぱり、自分は単純だ、と心の中で苦笑した。
彼の優しい言葉を聴く度に、こんなに温かい気持ちになれるのだから。
そっと、腕を伸ばしてルーファスの首元に抱きついた。
彼の首の後ろで重ねた自分の両手。
其の左手に嵌めている確かな銀の感触を右手て感じて、鈴花はそっと目を開けて、其の紫の瞳で彼を見た。
「……はい……」
笑って。頷いた。
一瞬、時間がこんな幸せな気持ちを抱いたまま、とまってしまえばいいと思って。
やっぱり、そんな事にはならないで欲しい、と思った。
此れからも、ずっと彼の隣に、居られるのなら。
其れが、何よりの幸せだから。
だから、時間が止まって貰っては、やはり、困る。
鈴花は、そっと、再度彼の胸に頭を埋めるようにして、瞳を閉じる。
そして、届かないくらいに、小さな声で、言葉を紡ぐ。
「…私、強くなりますね」
そして。
「……してます……」
届いただろうか。
届かなかっただろうか。
分からないが、どちらでも良い、とそう思って。
其の体温に、身を委ねる。
ふわり、と風が吹いて、葉が揺れる。
其の葉の間から差し込む光は、柔らかく、暖かかった。
(終わり)