「――…」
いとおしげに指輪を撫でる。
幸せ。言葉に出来ない程に、幸せだった。
約束は前からしていたし、少しずつ話し合っていった事だった。
でも…いざ、こうしてきちんと決まっていくとなると、やはり、改めて幸せだった。
口の中で、愛する人の名を呼ぶ。
何度も、何度も。
呟く程に、想いをこめて。
二度と離れないで欲しいという想い。
笑顔で居て欲しいという想い。
言葉にすれば消えてしまいそうで、言葉に出来る程自分は賢くなくて強くもなくて。
だから、名を呼ぶ事で其の想いをこめる。
…幼い頃は、自分は独りで逝くのだと思っていた。
生まれた場所は、自分を必要としていなかったから。
愛してくれている姉が居なくなれば、生きられないという事くらい、分かっていたから。
だから、こんな幸せは、自分には大き過ぎる気がして。
でも、より大きな幸せを、望んでしまって。
絡まる複雑な気持ちを胸にしまって、微笑んだ。
時間が早く来て欲しい。其の日に早くなって欲しい。
まだまだ時間があるから。
でも、ゆっくり過ぎて欲しい。一緒に居る時間を、少しでも長く感じていたい。
我侭だなぁ、と苦笑した。
其れでも、其の我侭さえ、人を想える幸せの証だと、分かったから。
「……
愛しています、」
もう、離れたくないから。
ずっと、一緒に居たいから。
其の言葉を小さく呟く。
指に輝く桜は、半分だけで。
もう半分のあるところを想い、少女はまた、微笑んだ。
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