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ひらり、ひらり、と。
揺らみ、落ちていく桜を見つめる。
家の近くにあった、大きな一本の桜の木。
あれが、幼い私の中にある、唯一の桜の花の記憶でした。
「――・・・・・」
春の暖かい風が吹き、其の度ごとに花を揺らし、そして花弁を落とす桜。
私の髪が少しだけ揺らいだ其の時に、一体どれだけの花弁が堕ちたのだろうか。
庭から出れば分かったけれど、私は其れを拒んだ。
会いたくなかった。
姉以外の、誰とも。
姉と二人で暮らし始めて、数年の年月が流れていた。
私は忙しい姉に代わって、家事をするようになった。けれど、買い物などは仕事帰りの姉の役割だった。本当はお姉ちゃんに負担を増やしたくは無かったけれど。・・・・だけど、私は怖かった。
怖がらないで良い、其の影に、脅えていた。
今から思えば、かなりばかばかしい。
けれど、当時の私には死活問題だったのだ。
今でもたまに、夢で見る――此のときの私は、瞼を閉じただけではっきり思い出せた――叔父や叔母の激しい視線。
口からあふれる言葉。
振り翳された手、其処に握られていたもの――
其れでも、其れは過去の話で。
姉が、私を護ってくれていた。
そして、私は其れを知って姉に甘えていた。
其処まで思い返して、私は苦々しい気分になる。
ふと、桜の花弁が、私の目の前まで舞って――
そして、堕ちた。
「・・・・・・・・・・・・・」
何も言わず、ただ、視線だけを下に向ける。
まだ綺麗なままの、花弁が、一枚。其処にはあった。
だけど。
私は、無言で其の花弁を踏んだ。
足を上げると、其処にはもう、無残な姿になった――桜の残骸が、あった。
其れを見つめた。
見つめ続けた。
咲かない時は誰にも見て貰えない。
一時しか咲かない時期に、見られて、そして散り際が潔い、と褒められる。
そして、其の美しく潔い散り際が終わると、後は、ただ、ごみとなるだけだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
見つめた。
自分が踏みつけたものを。
ただ、じっと。
見つめ続けた。
其の間にも桜は散る。
花の一生は、直ぐに終わる。
風に吹かれて、消えて逝く。
其れを気にせずに、私はじっと、堕ちた桜の花弁を、見つめていた。