01 | 2025/02 | 03 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ||||||
2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 |
23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
二人きりで居るのが当たり前だったから。
だから、何も気付けなかったけれど。
――きっと、お互い歩いていけるから。
「鈴、此れはどうするの?」
「え?・・・あ、其れはね・・・。・・・うーん、どうしよ?置いてくねー」
「はいはい。貴女の部屋はそのままで良いのかしら?」
「そうだね・・・一応、其れでお願いするんだよー」
ばたばた。
ばたばた。
・・・ずるぺたーん。
「あらあら・・・」
「うう・・・」
何時も通り、派手に転んだ妹を、姉がくすくすと笑いながら手を差し伸べる。
スズカは其れを躊躇いなくとると、起き上がった。
「ありがと、お姉ちゃん」
「どう致しまして。・・・けれど、其れであちらに迷惑かけないのよ?」
「うー・・・わかってるよぅ」
けれど、何時もと違う事。
大きな段ボール箱。
見るからに、其れは引越しの準備だった。然し、其れは一家全員、と割には少なく、せいぜい一人分のものだった。
ワカバは、何時もの笑顔を浮かべながら、小首を傾げる。
「けど・・・貴女が同棲する日が来るなんてね・・・」
「う、あまり言わないで、お姉ちゃん。・・・恥ずかしいから」
真赤になって、髪を弄り始めるスズカに、くすくすとワカバは笑う。
「あらあらまぁまぁv」
「~っ・・・・あんまりからかわないで、おねえちゃ・・・」
へにょ、と俯く妹の髪を、ワカバは優しく撫でた。
自分の髪とは違い、光を受ける度にきらきらと輝く琥珀色の髪の、変わらぬ感触に、口元を緩めた。
――お姉ちゃんの髪は、いいな・・・。
ふと、思い出した言葉。
あれは何時だったろうか?
妹が、そんな事を言いながら、自分の髪を櫛でとかしてくれていた。
――あら、何で?
――綺麗だから。すっごく。
――鈴のも綺麗よ。
――・・・そんな事、無いよ。
嗚呼、あれは故郷に居た頃だった、と思い出して、そっと瞳を閉じる。
母は都市国家を回る魔曲使い。
だから、黒髪黒目しかいなかったあの東方の都市に、自分達のような藍色の瞳をもった、そして妹のように琥珀色の髪を持った子どもが生まれた。
元々、故郷では優遇されていたとは言い難い妹にとっては、他の人と違う自分を嫌っていた。
(私は・・・羨ましかったのだけれど)
ワカバは幼い頃、母を慕っていた。
貴族の跡取りだったからなのだろう。
外へ出られないから、外を知っている母を尊敬していたし、愛しても居た。
――外は、色んな未知が溢れているのよ。
何時か、楽しげにいった母の笑顔。
何時も、丁寧すぎるくらい丁寧な言葉遣いを心がけていた母も、自分の旅路を振り返る時は其の口調が崩れた。
――知らない世界、知らないものが溢れているの。
――色んな人が居て、でも其れが世界の全てでも無い。
――不思議ね。
――でもね、やっぱり悪い考えを持つ人も居るけれど。
――思うのよ。
其れでも、
(其れでも、世界は綺麗・・・。・・・そうよね、母さん)
母が信じていた事。
そして、今。
自分が、妹が信じている事。
ワカバは、瞳を、薄く開けた。
あれから、二人になった。
二人きり。
きっと、独りぼっちよりも性質の悪い"二人ぼっち"だった。
けれど・・・
(其れも・・・お終い)
依存何て、してないと思っていた。
けれど、誰よりも依存していたから。
「――・・・」
無言で、妹がつけている、何時かあげたリボンを撫でた。
なぁに?、と訊ねる妹に、何でも無いわ、と微笑みかける。
そして、妹が編みこむようにつけている細いリボンを撫でる。
違う道に。
違う歩み方に。
ちょっと、心配だけれど。
私はもう、此の子の母代わりにも、友達代わりにも、ならなくて良いのだから。
(妹を、宜しくお願いしますね――・・・)
此処には居ない人に、呟いて。
柔らかく、微笑んだ。