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ずぅっと前にいっていた、フェイテルお兄さんと姉妹のSSです。
お兄さんの許可は頂いたので此方に。
手直しから有り難う御座いました。
お兄さんあいしてr(←
追記にて。
「――それじゃあ、行ってくるわね」
ワカバが玄関先に出ている、兄と妹を見て笑う。
「うん、いってらっしゃい。お姉ちゃん。がんばってね?」
「いってらっしゃいですにゃー」
「行ってきます。・・・兄さん、スズを宜しくお願いしますわね」
「任せて下さいですにゃー」
ワカバはもう一度だけ微笑むと、踵を返して歩いていく。その姿がだんだんと小さくなり、そして見えなくなった頃。
「さて・・・・・」
スズカは先程まで姉に見せていた、年相応(以下)の笑顔を引っ込めると、
「それではお兄ちゃん、勝負です!!」
「かかってきなさいですにゃー?」
首を傾げる兄・フェイテルにびしぃっと人差し指を向けて、宣戦布告を行うのであった。
時間は少し遡る。
「お兄ちゃんの、馬鹿ぁああぁぁあああああ!!!!」
クラハシ家に、そんな大声が響く。
ワカバが仕事先へと向かった後。たまたま姉の布団でも干そうと姉の部屋に入った後の事だった。
「どうして枕が二つあるのーーーー!!!!」
「スズカちゃん、押入れの中まで見たんですかにゃー」
「だって、お姉ちゃんのお部屋のお布団も干そうと思ったんだもん・・・って今はそういう事ではなく!!」
ばんばん、とちゃぶ台を叩いていうスズカ。其の上に乗っているお茶の水面が少し揺れ、お茶菓子としておいてある煎餅も振動で少し揺れる。
「添い寝はだめって言いました!!お兄ちゃんのお部屋だって用意したのに~・・・」
「変な事はしてませんよ?」
「してたら丸焼きです」
ぼそ。
スズカが一言、呟いた言葉により、時間が止まる。
「す、スズカちゃん…丸焼きはちょっと、勘弁してほしいですよ~…?」
「え、ぁ、ちょ今のは例え話なのです!!しても、ちょっと昏睡にしちゃうだけなのですっ」
それでも十分怖いですにゃ、と思ったが口には出さず。
「そうですかにゃー?」
「そうですっ」
むぅ、と拗ねながらスズカ。
そして、しばらく三白眼で義兄をにらんだ後に、急に右手の人差し指をびしぃっとフェイテルに向ける。
それを聞き、ころり、とフェイテルが首を傾げる。
「勝負ですか?」
「そうですっ」
こくこく、と力強くスズカは頷く。
「勝負は明日っ。お姉ちゃんがお仕事にいってからなのですっ!!」
そして、今日。
「・・・それで、どうして台所なんですにゃ?」
クラハシ家の台所に、二人は立っていた。
「お料理勝負だからなのです」
にぱ、と笑顔でスズカはいう。
「制限時間はお夕飯の時間までなのです」
「スズカちゃん、お夕飯の支度をついでに済ませようと思ってませんかにゃー?」
「う・・・だって、アビリティ使って喧嘩しちゃったら、お姉ちゃんが悲しむのです」
「まぁ、そうですね~」
「そ、そうなのですよっ。・・・あ、お料理の組み合わせが変にならないように、時前に相談して決めておきましょう、です」
「了解ですにゃ」
色々と思うところはあったが、とりあえず黙っておくフェイテルであった。
そして。
「じゃあ、メニューはカレー、でっ」
無難なところに落ち着き、スズカが妙にやる気を出していう。
「負けませんから!!」
「煮込み料理なら得意ですにゃ♪」
普通に楽しげなフェイテルに比べ、スズカは一人、右手を上げて「おーっ」とか叫んでいる。
シスコン恐るべき、という事か。
フェイテルはそんな事を考えながら、カレーを作る為の準備に取り掛かった。
――やがて、クラハシ家の台所には、カレーの良い香りが立ち込め始める。
「~・・・♪」
勝負だという事を忘れ、スズカはのんびりと鼻歌を歌いながら、カレーの入ったお鍋をかき混ぜる。
スズカが作るカレーは、元々はワカバから教わったもので、更にそれを改良してある、和風出汁のチキンカレーだ。そして、当然の如く甘口。
実は、元々ワカバに教えて貰った時は中辛だったし、ワカバ自身も中辛くらいが好きなのだが、絶望的なくらいに甘いのが好きなスズカは中辛も「とても辛い」と感じてしまう為に、クラハシ家の食卓のカレーはほぼ絶対に甘口だ。ついでに、ワカバは「作る人の特権よね」という事で諦めている。
「・・・よしっ」
殆ど出来たカレーを見て、満足げに頷いたスズカは、隣のフェイテルの方を見る。
「お兄ちゃん、どうですか~?」
「後は煮込むだけですにゃ~」
そうですかー、と答えながらスズカはフェイテルのカレーの鍋を覗き込む。
そして。
「・・・・・・・・・え"?」
固まった。
鍋から顔を上げ、横を向いて。義妹が何ともいえない表情で固まっているのを見て、フェイテルは首を傾げた。
「どうしましたー?」
「あ、あぅ・・・・。これ・・・辛口、ですよ・・・ね?」
「そうですよー。辛口でビーフカレーにしてみましたにゃー」
「ビーフ・・・!!??」
其の単語に、スズカは固まっていた表情を驚きに変える。
「そんな・・・カレーに牛肉を使う何て、前代未聞なのです・・・・」
「スズカちゃんー?」
何やらカルチャーショックを受けている様子のスズカを、フェイテルは首を傾げながら見守る。
はっと、スズカが正気に戻った。
「え、えとまぁ、良いのです!!うんっ。お姉ちゃん辛口平気だった筈だし・・・っ。・・・・うう、私ってやっぱり貧乏性なのかなぁ・・・・」
何処か潤目のスズカを見て、深くは聞かない方が良いかな、と思うフェイテルであった。
「――ただいま」
玄関から声がする。
それを聞いて、今まで居間にいたスズカがぱたぱたと玄関へと向かった。
「お帰りなさい!!お姉ちゃん♪」
帰宅した姉に屈託の無い笑顔で抱きつくと、ワカバは微笑ましげに頷いた。そして、妹の後からやってきた義兄にも微笑みかける。
「兄さんも。ただいま戻りましたわ」
「うん、お帰りなさいですにゃ~♪」
ワカバもにこ、と微笑むと、ぞうりを脱ぎながら、良い匂いがするわね、と微笑む。
「今日はカレーかしら?」
「だよ♪私とお兄ちゃんが作ったんだ」
「あら、二人で作ったの?」
「う~ん、正確にはちょっと違うんだけど・・・まぁ、おいといて。取りあえず、お食事にしよ?」
にこ、とスズカが微笑むとワカバもそうね、と微笑み返す。
「じゃあ、準備するから、お姉ちゃんは居間で待っててねっ」
「あら、手伝うわよ?」
「私とお兄ちゃんでするから平気っ。お兄ちゃん、行きましょう?」
「はいですにゃ~」
微笑ましげに姉妹を見ていたフェイテルは、こくりとひとつ頷いてスズカの後をついていく。
其れを見送りながら、ワカバは微笑んだ。
「仲良くなったわねぇ・・・・」
血の繋がりなど関係なく、兄妹として接している二人を見ると、本当に嬉しくて。だからワカバは、口元を綻ばせながら居間へと向かった。
そう大きくないちゃぶ台に、カレーの皿が四つ、並んだ。
其れを見て、ワカバはころり、と首を傾げる。
「あら・・・・?今日はお客様がいらしているの?」
「あ、違うの。お姉ちゃん」
スズカが首をゆるゆると横に振る。
「私とお兄ちゃん、別々に作ったんだよ。だから、両方共食べて貰おうと思って。・・・・ね、お兄ちゃん」
「ですにゃー」
こくこく、と頷くフェイテル。そして、笑顔でワカバに告げる。
「さ、熱い内にどうぞですにゃ~」
「そうですか?では、頂きますわね」
手を合わせて、其れからワカバはスプーンを取る。
先ず、手前から右側においてある皿を見て、ふふ、と笑った。
「こっちがスズのね。で、左側のが兄さんの」
「え?わかる?」
「勿論。・・・・じゃあ、頂くわね」
ワカバは、スズカのカレーを一口食べ、続いてフェイテルのカレーを一口食べる。
どちらもおいしそうにしっかりと味わうように食べている。
「ど、どう?お姉ちゃん」
そんなワカバに、スズカが身を乗り出して尋ねた。ワカバはしっかりと、口の中にあるものを飲み込んでから微笑んで答える。
「おいしいわよ。スズのも、兄さんのも」
「ど、どっちかというとどっちが美味しい・・・?」
「うん?」
ワカバはそんな妹の言葉に、首を傾げる。
「どっちも美味しいわ」
「でも・・・」
「大事な兄さんと妹が、作ったカレーですもの。・・・・・どっちかの方が、何て事、ないわよ?」
柔らかい姉の笑顔に、う、とスズカは口を閉ざす。
其れを見て、フェイテルがくすくす笑った。
「そういう事で、引き分けですにゃ」
「あぅ・・・別に、良いんですけれど・・・」
「さぁ、スズカちゃん。私たちも食べましょうー」
そういって、フェイテルがスズカとフェイテルのカレーを半々に入れた皿を二つ、持ってくる。
自分の為のと、スズカの為のと。
「あ、ありがとうございます・・・・」
スズカは、ぺたん、と座布団に座ると手をあわせ、頂きます、といってからカレーを口にする。
「はぅ、辛い・・・」
「大人の辛さですにゃ♪」
「大人の・・・ま、負けないっ!!」
何に負けないのか。
よくわからないままに、スズカはカレーを口に運び続ける。
「・・・お兄ちゃんのカレー、美味しいです」
「其れはよかったですにゃ~♪」
「・・・・・・・・・・・・」
ワカバは、苦手な辛いものを口にしながらも微笑む妹と、其れを見て楽しげに笑う義兄を見て、心から楽しげに微笑んだ。
「家族が、増えるのって良い事よね・・・」
小さく呟きながら、自分もカレーを口にした。
食べなれた妹の甘口のカレーも、初めて食べる義兄の辛口のカレーも、やはりどちらも、とても美味しかった。
「お兄ちゃんの馬鹿ぁあああああああぁああああ!!!」
「はい!?」
「さっき見たんですからぁっ!お姉ちゃんに抱きついて貰って・・・・勝負ですー、うわぁああああん!!!」
後日。
クラハシ家にはそんな絶叫が響く。
其れを聞きながら、ワカバは仲良しねぇ、などと思うのであった。