本をめくる。
ページの音と、開けた窓から吹く夜風に、耳を傾けた。
「・・・・・・・・・・・・」
小さな小さな物語。
その主人公。
どんな主人公でも、最後は必ず強くなる。
そんな物語を、幾つも読んだ。
今も。
「・・・・・・・・・・」
ページをめくり続けた時だった。
「・・・・入る・・・わよ・・・・」
「・・・姉様」
姉の声に反応して、エリザベスは少し慌てた。
「どうぞっ・・・姉様」
扉が小さく音を上げて開いた。
自分とは違う、銀の髪が靡いて、姉・リリアは入ってきた。手にはお盆がある。その上には、湯気のたったコーヒーが乗っていた。
「・・・・・最近・・・・・寒くなってきたから・・・ホットがいいかしら・・・・って思って・・・・・」
途切れ途切れにリリアは言葉を紡ぐ。
ありがとうございます、と微笑を浮かべて、リリアからコーヒーを受け取った。
自分と同じ蒼い目を見る。
小さい頃から。自分の焦げ茶色の髪は少し苦手。それでも、姉と同じ色の瞳は結構好きだった。
ずっと、姉との共通点を探してきた。
「―――・・・・」
エリザベスは、姉の瞳を見つめ続ける。
以前は、いつも優しく細められていて、悪戯っぽかった瞳だった。
今の、リリアの目は、死んでいる。
殺されたと思って仇討ちをすると決めた日。
考えても見なかった再会。
涙が出るくらいうれしかった。それと同時に
(・・・・姉様・・・・)
『違い』に戸惑ってしまう。
記憶を失う前は、明るく、見てるこちらが暖かな気分になれる人だった。
記憶を失った後は、消耗的で、見てるこちらが不安になるくらいぼんやりとしていた。
変わらないのは、見た目とその心にいつもあり続ける慈愛。
自分を妹と呼んでくれるその事実。
人は変われる、か。
そう小さくつぶやいた。
記憶を失う前の姉は、過去に捕らわれてるような面があった。それが幼い自分にもはっきり分かっていた。
今の姉は、記憶に捕らわれず、のびのびとしている。
そういえば、昔のこの人は、明るさの中にいつも影を落としていた気がする。
―――そして、
「それは私も、ね・・・・」
小さく小さくつぶやいた。自分を護る為にいくつも使い分けてきた口調の中から、一番自分の素に近いものを。
「・・・・・・どうしたの・・・・・?」
「ふふ、何でもないーですーv姉様、コーヒー美味しいですっ」
「そう・・よかったわ・・・・」
微かに、姉が笑った。
今はそれで、満足。
エリザベスも微笑むと、コーヒーを飲む。
違いは、ある。
弱い自分は、いつまでも昔の姉を追っている。
だから、思う。
強くなろう。
物語の主人公のように。
強くなろう。
・・・過去に、捕らわれないように。
小さな小さな決意が、姉に悟られないように。
エリザベスは、姉に笑顔を向けた。
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