――初めて、人を好きになった。
今までは、小さな小さな世界で生きてきたのだから。
そもそも、男の人なんて殆ど関わった事、なかったくせに。
こんなに、好きになった。
哀しい事はたくさんあった。
それでも、一緒にいるのは、自分の意思なのだろう。
畳に、ゆっくりと横たわった。
――ふわり。
琥珀色の髪が、畳に流れる。
それは、本当に幼かった頃、もっとこの髪が短かった頃、よく見た光景。
生きている実感はなかった。
あるとすれば、それは姉。
たった一つの、自分の拠り所。
それが、哀しかったのか、今となったら、分からない。
あの時は、特に何かを考えていたわけではなかったのだから。
目を、とじる。
暗闇が瞼の裏に映る。
淡い光。
何もない部屋。
腕に抱きしめたぼろぼろの人形。
偶に顔を見せてくれる、優しい姉の笑顔。
それだけの世界。
――今は、違う。
そう、違う。
「…色んな事が、今でも、怖いけれど」
例えば、幼い日が。
例えば、此処数年の哀しい事が。
それでも、
「…ずっと、一緒にいようね」
小さな子どものように、囁いて。
それでも、もう小さな小さな、あの頃の自分ではない。
そっと微笑み、瞳を薄く開ける。
部屋の中から見る月光に、指輪が輝いた。
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